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【映画】オスカー受賞!ノマドランドは押し付けじゃなく見た人の心に”生き方を考えさせる”作品だった

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 今年のアカデミー賞受賞作”ノマドランド”を遅ればせながら鑑賞してきました。見終わってからの感想になってしまうのですがエンタメ作品ではなくドキュメンタリー作品であったり、初の女性アジア系監督のクロエジャオだったりと世界中がコロナ禍にあって米国においてはヘイトクライムが多発している現状を踏まえ

アカデミー賞の選考自体が世相を反映しているのかも

と思ったりもしました。個人的に2021年を写していると感じたノマドランドとはどんな作品なのでしょうか、明確にネタバレはしないように気をつけますが今後見ようと思っている方は注意したいただけたら幸いです。

ホームレスじゃなくハウスレス

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原作はジェシカブルーダー著の「ノマド 漂流する高齢労働者たち」という本です。こちらは

”一見、キャンピングカー好きの気楽なリタイア族。その実、車上生活をしながら、過酷な労働現場を渡りあるく人々。アメリカのリーマンショック後の新しい高齢貧困層に密着し、老後なき現代社会をルポルタージュする。2000年代に新しい貧困層が現れた。一見、キャンピングカー好きの気楽なリタイア族。その実、車上生活しながら、若者もひるむ過酷な現場を渡りあるいている人々がいる。多くはリーマンショック後に路上に出た。彼らはなぜ伝統的なライフスタイルに背を向けたのか? 彼らを必要とする企業の思惑とは?気鋭のジャーナリストが自ら車上生活をこころみ、三年にわたって数百人に取材、老後なき時代の現実をルポした。”「TRC MARC」の商品解説より

という原作で簡単に言うと定住しない高齢になったヒッピー的な暮らしの方々の日常を描くストーリーです。日本にはヒッピーという生活文化に馴染みがないので特に若い方はわからない方も多いかと思いますが1960年代にアメリカで登場したカウンターカルチャーでドラッグやサイケデリックなロック音楽,東洋的な瞑想を好み,既存社会への不満から定職につくことを拒否して放浪した人々を指す文化です。おそらくここに登場するノマド達はこの文化に少なからず影響を受けていると考えられ(さじゃん的に)、高齢になってノマド的、ヒッピー的な暮らしにシフトしていったと考えられます。

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主演はフランシス・マクドーマンド。今回のノマドランドでの受賞でオスカー三度目という62歳の大女優です。作品を見ていて個人的に思ったのは、アメリカの大竹しのぶみたいな女優さんだなとwそれもそのはずで、マクドーマンドは作品によってぜんぜん違う人間に見える性格俳優的な要素も持った方なんだなと感じていたので今回の作品もメイクもせず髪もボサボサである意味で

女優として衝撃的な姿でストーリーを進める姿

に納得の主演女優賞だなと感じました。彼女が演じたファーンという役は架空の人物ですが映画には本物のノマドたちがキャストとして登場します。ファーン(マクドーマンド)は夫に先立たれリーマンショックによる企業倒産のあおりを受けて長年住み慣れた家と街を失い”ノマド”となることを決め旅に出るストーリーです。そこので出会うノマド達の生き方や考え方に感化されファーンが様々な思考を重ねながら旅をするお話です。元教員だったファーンが教え子の子供に「先生はホームレスになったのか?」と聞かれ「ホームレスじゃなくハウスレス」だよ、違うんだと答えます。このシーンが個人的には印象に残っている言葉だったりもします。

社会に押し出されたのではなく選択してノマドへ

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ホームレスじゃなくハウスレスとは何が違うのか。という事ですが、ホームレスは社会生活困窮者を示す言葉でありノマド生活とは違います。ファーンを始め実在のノマド達は勤労することで対価を得ながら社会に貢献していますし、

選んでノマドスタイルを貫いている

のであり、生活に困ってこの暮らしをしているわけではないという点がハウスレスでありホームレスではないのだというファーンの言葉に集約されていると思いました。ベトナム戦争のPTSDに苦しむ元兵士だったり息子に自殺され生きる希望を見いだせなくなり、既存社会からノマド生活にシフトした高齢者が登場したりと動機は様々でそうした悲しみを抱えた高齢者ノマドワーカーが沢山登場しファーンに影響を与えていきます。ですが、先述したヒッピーの様な既存社会への抵抗であったりカウンターカルチャーと言ったパンク的思想ではなくノマド生活で

”自分のあり方をゆっくり見つめたい”

という内向的な思想で行動している高齢者ノマドが多いのだと感じました。仕事や環境を求めてキャンピングカーで孤独に移動を続けるそれがノマドランドで描かれている漂流する高齢労働者だということになります。

距離感が絶妙なノマド達の人間関係

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高齢労働者ノマド達が集まるイベントがありファーンはそこで様々な人達に出会いますが、ここで描写される人間関係が非常に考えさせられるものでした。工具や生活必需品の物々交換や知り合った相手のRV車での食事など一見すると楽しそうなアウトドアライフにも見えるのですが、様々な事情で今の生活をスタートさせているノマド達がほとんどですので

お互いに過剰な干渉をしない距離感

で接しているように見えました。イベントが終わればそれぞれバラバラに好きなエリアへと旅立ったり同じ場所に残ったりと密な関係を望む日本の高齢者的思想からするとかなりアッサリとした割り切った関係のようにも見えます。お互いの過去の話はするけど、深入りせず感想も述べずただ言い合うだけのような。そこには長年生きてきた高齢者同士のノマドライフを選択した者同士の絶妙な距離感が存在しているのだと。

実はノマドランドというこの映画なにか大きな場面転換やストーリーの起伏というものが起きることは全編通してありません。年末年始にAmazonの大きな配送センターでも仕事から始まりたびに出てまた次の年の年末年始に同じAmazonの配送センターで短期のバイトをしてという何も起きないノマドの日常がただただ100分描かれています。昨年のパラサイトの様に劇的な展開のオスカー作品と比べるといささか薄味にも感じますが、コロナ禍において世界がパラダイムシフトしている中生き方、働き方も変わっていくのだとジャンクロエ監督に突きつけられているようにも思います。オスカー自体にもジェンダレス、エリアレス、人種の壁を超える動きがあり去年のパラサイトに続いてのアジア系監督の作品賞受賞となっております。薄味ながらも見た人の心の中に、終活であるとか自分の人生の集大成ってどんな感じになるのかと考えさせられる良作だと思っています。みなさんもぜひ映画館で見ていただけたらと思います。

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