最近演劇に興味があるトモGPです。漫画家 今日マチ子原作の”cocoon(コクーン)"という大好きな作品があります。沖縄戦に着想を得た、学徒隊として戦地に駆り出された少女達の物語で、2010年に発行されたこの”cocoon”という作品が戦後80年となる2025年にアニメ化されます。
今回初の映像化となるcocoon(コクーン)ですが、実は過去に”マームとジプシー”という演劇団体により舞台化されたことがあります。2013年の初演以来2015年の再演、そしてコロナ禍を経て2022年の再々演までされたマームとジプシーにとっても非常に人気で彼らの代表作と言っても過言ではない作品となっています。これまで気になっていてもなかなか観ることができなかったその舞台が、なんと最近クラウドファンディングにより円盤化されたということで自分も早速取り寄せてみました。
マームとジプシー
“マームとジプシー”は藤田貴大が全作品の脚本と演出を務める演劇団体として2007年設立。2012年よりオリジナルの演劇作品と並行して、他ジャンルの作家との共作を発表。あらゆる形で作品を発表し、演劇界のみならず様々なジャンルの作家や観客より高い注目を受ける。俳優、テクニカルスタッフ共にほぼ同メンバーで活動するものの、カンパニー化はせず作品ごとに出演者とスタッフを集め創作を行っている。作品を象徴するシーンを幾度も繰り返す“リフレイン”の手法で注目を集め、主催である藤田貴大は、演劇作品以外でもエッセイや小説、共作漫画の発表など活動は多岐に渡ります。(公式HPより抜粋)
もともと自分は音楽や映画といったカルチャーは大好きで”演劇”という世界にももちろん興味はありました。しかしその世界をあまりにも知らなさ過ぎるということと、実際に劇場に足を運んで観劇しなければならないというハードルの高さからなかなか手が出せずに今に至る感じになっていました。
本来は”演劇=実際に観るしかない”わけなのですが、いま上演していないものを生で観劇することは不可能です。しかし自分が大好きな作品の舞台はぜひとも観てみたい!というわけで、演劇好きな人からすれば邪道と思われるかもしれませんが、今回は映像化された作品を鑑賞するという形で演劇の世界に触れてみることにしました。
cocoon(コクーン)
今日マチ子原作の”cocoon(コクーン)”は冒頭でも触れた様に、沖縄戦に着想を得た、学徒隊として戦地に駆り出された少女達の物語です。物語の前半は彼女らのごくごく平和で当たり前の日常が描かれており、やがて戦地に駆り出されることでこれまでの穏やかな日常がいつの間にか戦争という非日常に変わっていきます。今日マチ子ならではの柔らかく繊細なタッチで描かれる日常と戦争という非日常の対比、そして登場人物達の目を通してみた「戦争」というものが描かれている作品です。
マームとジプシーによる舞台”cocoon”は通しで150分と映像作品としてはかなりの長尺。実際の舞台は休憩などが入るのかもしれませんが、全くの初見である自分は恥ずかしながら正直大好きな作品の舞台化といえど150分間しっかり最後まで観続けられるのか心配でした。そして大袈裟かもしれませんが実際に観劇する上での心構えといいますか、音楽のライブを鑑賞する感じなのかそれとも映画などを鑑賞する感じなのかイメージが湧かず、せっかくの初観劇があまり集中できずにフワフワした気持ちのまま終わってしまわないか正直不安でした。
舞台の前半は原作同様に島の生徒達の学校での生活を中心とした日常が描かれます。内容は原作を忠実に再現するも、彼女らの日常生活のパートでは原作に無い演出や会話なども大きく追加されていてマームとジプシー版ならではの”cocoon”を楽しむことができます。そして物語は進むにつれ原作同様に、日常は戦争という死と隣り合わせの日々へ変化していきます。
当たり前ですが舞台は映画やドラマと異なりその場面にあった衣装やセットが完全に再現されているわけではありません。窓のフレーム?(上手く表現できませんが)の様なものを用いた極めてミニマルなセットと光の演出、生で演者たちによって演奏される効果音や音楽をバックに舞台は進行します。
出演する役者は全17人と多く、その大半は女学生役です。登場人物も多く初めは誰が誰だかわからなかったりしますが、原作より多めの日常エピソードがより登場人物への感情移入度を深めますし、なにより特徴的なセリフ回しや”リフレイン”という所々で印象的にセリフやシーン繰り返す手法により、気がつけば瞬きするのも忘れ一気に舞台に引きずりこまれていました。何も無い舞台に明らかに草原や焼け野原、壕の様子が確かに見えます。役者さんの演技に意識を100%集中していると周囲の情景を確かに感じることができるのです。
観劇後に知ったのですが”マームとジプシー”の舞台は「普通の演劇」とは異なり万人にわかりやすいスタイルではないと言われているそうです。「普通の演劇」というものが自分にはまだよくわかりませんが、演劇初心者の自分でもこの舞台を観劇して大きく心を揺さぶられましたし、最終的に物語の内容は知っているはずなのに気がつけば号泣という自分でも驚く展開に。感想を述べるとするなら全編を通して正に"圧巻"の一言、映像作品だけどとてつもなく圧倒されました。原作を読んだ時とは全く違った感動なのですがどちらも間違いなく"cocoon"なのです。明らかにライブとも映画とも違う新しい感覚を覚えると同時に、これまで漠然と捉えていた演劇というもののイメージはリセットされ俄然興味が湧いてきました。”マームとジプシー”の舞台”cocoon”は本当に素晴らし過ぎました。
今回は映像作品での観劇となりましたが次回は必ず劇場に足を運び、生の演技の迫力や圧を実際に体験してみたいと思いました。