最近、再びバンド漫画がブームの兆しにあります。少し前に流行った”ぼっち・ざ・ろっく!”なんかは登場人物こそいわゆる”萌え系”のキャラクターだったりしますが、劇中の舞台や音楽用語、そしてキャラが使用している機材なんかは実在のものだったりと、音楽好きにも幅広く人気のある作品です。しかし多くの音楽やバンドをモチーフとした作品は、どこか現実味が無かったり、ただ物語を盛り上げるためだけの”ネタ”として扱われるされることが多く、音楽好きとしては読んでみてがっかりしてしまうことも多かったりします。そこで今回は、音楽と漫画をこよなく愛する私トモGPが、現在連載中のものからすでに連載終了しているものまで、音楽好きであれば必ずどこかしら刺さる”おすすめバンド漫画”を紹介したいと思います。
BECK/ハロルド作石
平凡な中学生・田中幸雄(通称コユキ)が、カリスマギタリスト・南竜介との出会いをきっかけに音楽の世界に飛び込み、バンド「BECK」の一員として成長していく。
もはやバンド漫画の金字塔と言っても過言ではない作品”BECK”。数々の困難が降り注ぐインディー時代や、世界的なロックフェス「グレイトフル・サウンド」への出演など、とにかくリアルとフィクションのバランスが非常によくとれた内容で、音楽好きであろうとなかろうと誰もが楽しめるバンド漫画です。
作中の曲は実際に聴けなくとも、レイジアゲインストザマシーン、レッドホットチリペッパーズ、REM、オアシスなど、基本的には洋楽を中心とした作者の音楽の好みをストレートに感じることができます。ライブハウスからフェスの大きなステージまで作中のライブシーンはミュージシャンも納得のリアルな描写で正に圧巻の一言。これまで青年誌がメインであったハロルド作石の少年誌初連載作品ということもあり、デビュー当時から作者のファンである自分としても非常に思い入れの深い作品です。少年誌ならではのキラキラした目のタッチなど自分の様な古参のファンからしたらかなり新鮮でしたが、内容は安定のハロルド節全開で誰が読んでも楽しめる最高のエンタメ大作となっています。コミックス全34巻という超大作ですが音楽好きならマストな作品と言えるでしょう。
Eから弾きな/佐々木拓丸
不景気の最中、ようやく定職に就けた神谷三蔵27歳。ホッとしたのも束の間、履歴書の趣味の欄に弾いたこともない「ギター」と書いたことをきっかけに、武藤史子なるドS女子に否も応もなくギタリストとしてスカウトされ、なんと1ヵ月後にはライブでステージに立たなければならなくなるのであった。
読んだ時の第一印象は作画が異常に綺麗なバンド漫画といった感じでした。しかもキャラデザインが非常にダサく正直自分には向いていないかな?とも思いましたが、読み進めていくうちにその印象は変わっていきました。それは何故かと言いますと、この”Eから弾きな”は、ストーリーはありきたりではあるものの、ギターを初めて手にし、時につまづきながらも少しづつ弾ける様になる楽しさであったり喜びが非常に丁寧に描かれている作品である、ということがわかったからです。まるでギターの教則本の様な情報やノウハウは、一度でもギターを手にしたことのある人であればニヤリとしてしまうものばかりで、気づけば初ステージを目指しギターを猛練習する主人公に感情移入していました。全3巻と非常にコンパクトにまとまっているのですが、可能であればぜひ続編を期待したいところです。演奏シーンも迫力満点でギター初心者にこそぜひ読んでいただきたい作品です。
バジーノイズ/むつき潤
マンション管理人をしながら、趣味で音楽を奏でる「だけ」の”シンプルで完璧”な生活を送る主人公 清澄(キヨスミ)。しかしある日清澄はバンドマンに恋をする女・潮(ウシオ)に出会うことにより、今までの閉じた世界に強烈な”ノイズ”が流れ込み、清澄の人生は大きく変わっていく。
絵柄といいストーリーといい一言で言えば非常に”現代のリアルを感じることのできる”バンド漫画です。音楽やバンドが物語のメインではなく、あくまで清澄と潮を中心とした人間ドラマではありますが、音楽やバンドの部分が決してオマケ的な要素ではなくしっかりとリアルを感じることができる内容となっているのがこの作品の魅力の1つかと思います。作風も、バンド漫画の先駆けとして有名な”TO-Y(トーイ)/上條淳士”を連想させる雰囲気で、新しいのに読んでいてどこか懐かしくもあったりします。シティポップだったり、サウシードッグやオーサムシティクラブあたりの音楽を連想させる音の描写も独特でカッコいい作品です。コンピュータ、SNS、サブスクなど正に”今どき”のモチーフ満載で、淡々とした描写ながらも現在のミュージシャンならではの苦悩や喜びが非常に丁寧に描かれていて読み応えのある作品、今時バンド漫画の決定版です。
エイト/楠みちはる
高校2年生のエイトは幼い頃に父を亡くし、ジャズミュージシャンだった祖父のトミーに育てられた。自宅地下のスタジオでギターを一人で弾いていたエイトだが、中学の同級生の新名(ニーナ)と再会し、彼の所属するバンド・DXに参加することになり、音楽人生に大きな変革をもららすこととなる…!
作者である楠みちはるは”湾岸ミッドナイト”など車やバイクを題材にした作品で有名な漫画家です。その彼がまさかのバンド漫画を描くということがまずとんでもないサプライズであるということ。そしてその内容が紛れもなくゴリっゴリのロック漫画に仕上がっていることがまた驚きだったりします。舞台は現代の高校ですが登場する音楽はビートルズ、ローリングストーンズ、レッドツェッペリン、ジミ・ヘンドリックスなどオールドロックのオンパレード。現代の音楽は全く出てきませんw。今時の軽音部のライブでこのセットリストは流石に無いと思いますw。作風の古臭さは正直否めませんし結構なトンデモ展開だったりもします。しかしどう考えてもモブキャラでしょ?と思っていたキャラクターが意外と重要な役柄であったり、読み進めていくうちに主人公達以外の登場人物に対して愛着が湧いてくるのはさすが大御所漫画家楠みちはるの手腕といったところでしょうか。そして読んでいるとビートルズやローリングストーンズをめちゃくちゃ聴きたくなってしまいますw。絵柄の好き嫌いは大きく分かれるところではありますが、オールドロックファンにとってはたまらない作品であることは間違いないと思います。
THE BAND/ハロルド作石
いじめられっ子の少年 新木友平はある日音楽好きの母に連れられて行ったライブを見て衝撃を受ける。後にギターと出会い音楽にのめり込む友平、そして友平のたった一人の親友であるマタロー、”THE BAND”はそんな二人の音楽を通した友情と成長の物語。
まずハロルド作石がまさか再びバンド漫画を描く日が来るなんて夢にも思いませんでした。しかも前作BECKでは主人公がボーカリストだったのに対し、今回の主人公はギタリスト。同じバンド漫画でもまた違ったアプローチの作品が読めるのはファンとしては非常に嬉しい限りです。
主人公の少年がギターを手にするところからスタートして練習しバンドを組むという流れは、正直前作"BECK"と似ている部分もありますが、今作では主人公がギターを手にし音楽にのめり込んでいく過程がより丁寧に描かれている印象を受けます。主人公友平の使用するギターが非常にレアでマニアックなモデルなのは置いといてw、他の登場人物達の、中高生ならこの辺だよなぁ、という使用機材であったりコピーする曲のチョイスなどもあるあるでバンド経験者ならニンマリしてしまうこと間違い無しです。もちろんハロルド作品ならではの小ネタも満載で、友平達が初ライブを行う会場の"コーチェラ商店街"というネーミングには思わず吹き出してしまいました。2025年5月現在では、まだ1巻しか発売されていませんが個人的には今後の展開が非常に楽しみで仕方のない作品です。
ふつうの軽音部/原作:クワハリ・漫画:出内テツオ
ちょっと渋めの邦ロックを愛する新高校1年生・鳩野ちひろは、初心者ながらも憧れのギターを手に入れ、念願の軽音部に入部する。個性豊かな部員たちに困惑しつつも、バンドを結成し多くの経験を経て成長していく。
少ない線で描かれるシンプルなタッチの画風は、これまでのバンド漫画ではあまり見たことがない雰囲気で非常に新鮮です。主人公鳩野ちひろは見た目も性格もどこかちびまる子ちゃんを連想させる様なキャラクターで非常に親しみやすく、少し読んだだけでは”日常系”の作品かと錯覚してしまうかもしれません。現代の高校の軽音部が舞台の作品なので作中に登場する楽曲は基本的にカバーなのですが、主人公鳩野ちひろが渋めの邦ロックファンということもあり、ナンバーガール、アジカン、フジファブリックなど00年代のアーティストを中心に現代の邦ロックの楽曲が満載なので、この辺りのバンドのファンにとってはたまらないかと思います。この作品の特徴は軽音部ならではの”あるある”がとにかくリアル、部内恋愛によるバンドの内輪揉めや、部員の音楽に対する興味の温度差など、確かに部員数の多い軽音部ってこうだよなぁ、といったエピソードがとにかく満載です。そうかと思いきやライブシーンや歌唱シーンといった”音”を描く描写も非常に秀逸で、読んでいて胸が熱くなるシーンが多いのもこの作品の魅力だったりするのもこの作品の大きな魅力です。見た目とは裏腹の本格熱血バンド漫画"ふつうの軽音部"はとにかくおすすめの作品です。
というわけで今回は特におすすめの5作品を紹介しましたが、みなさんもおすすめのバンド漫画があればぜひコメント欄などで教えていただければと思います。