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『スモールワールズ』花うた 考察|『みいちゃんと山田さん』から考える共通点

今回私がおすすめするのは、一穂ミチ著の『スモールワールズ』です。一穂ミチ氏はもともとBL(ボーイズラブ)の小説を多く出してきました。BL小説家ならではだと感じるのが、心理描写や情景描写の細やかさ。それが一番生きていると感じたのが『スモールワールズ』の4話目の「花うた」という物語です。文章を引用しながら解説していきますので、ぜひ最後までチェックしてみてください!また、話題のヒット作『みいちゃんと山田さん』にも紐づけて解説していきます。

「花うた」ってどんな話?

『スモールワールズ』は、6つの短編集が詰まっています。そのなかでも「花うた」は他の物語と違って往復書簡形式で書かれた作品です。主人公・深雪は両親を事故で亡くし、兄と2人きりで生活してきました。ある日、兄は秋生という男に命を奪われます。深雪と秋生は手紙でやりとりをしていき、様々な感情と葛藤していくという話です。全てのやりとりが話し言葉で書かれているので、読書が苦手な方や長文を読むのが嫌いな方にもおすすめです。

主人公・深雪と秋生の性格の違い

この2人の性格や生きてきた環境は全く違います。真面目で社会のルールに従い、感情の整理ができる深雪。一方で犯罪に手を染め、感情や行動のコントロールが苦手な秋生。2人がどう人生で重なるのか見て行きたいと思います。

深雪の兄との関係性

まず初めに、主人公・深雪と兄との関係性を見ていきましょう。

深雪:兄は大学に通いながら、わたしの面倒を見てくれました。そのために友達もサークルも当時の彼女も、全部切ったと思います。就職先は、家から近い会社、仕事の内容や給料はどうでもいいから定時で帰れるところを条件に決めました。(178ページ引用)

深雪:兄が嫌いなものはたくさんありました。お酒にタバコ、テレビ、膝が隠れない丈のスカート、茶髪、長い爪やネイル、メイク。夕方六時までに帰ってこないこと。窮屈だと思う時ももちろんありました。でも、そのたびにあの晩のタクシーで見た兄の横顔が浮かび、口に出汁て抗えなくなります。それに、さっきも書きましたが、兄はいつも優しく、わたしのことを第一に考えてくれていたので、大きな不満はありませんでした。兄の言うまま看護学校に進み、看護師になりました。「化粧もマニキュアもしなくていいし、僕に何かあっても安心して世話を頼めるから」という言葉に何の疑問も抱きませんでした。ここまで書いて、心臓がバクバクしています。(省略)兄との静かなふたり暮らしに何の不満もなかったはずです。事件さえなければ、ひっそりと続いていたでしょう。なのに、断ち切られた日常の続きを想像すると息が苦しくてたまりません。(179ページ引用)

深雪にとって兄は守ってくれる存在でもあり、同時に縛る人でもあったことがわかります。妹のために恋愛も学生時代も、就職してからも犠牲にしてきた兄。そのため、「自分はここまできちんとやっている」「これくらい言う権利はある」という感情が無意識に生まれてしまったことが伺えます。兄は最初から妹を支配したかったわけではありません。ですが、あまりにも妹の存在が大きく、兄としての責任を果たすためにバランスが崩れてしまったことが伺えます。

心臓がバクバクとあるように、秋生とやりとりをしていくうちに感情の整理が付かなくなっていることがわかります。兄と生活しているうちは関係を客観視できずにいましたが、手紙のやりとりをしたおかげで客観的に見ることができました。失ってはじめて気づいた感情なのかもしれません。深雪と兄の関係性は読み手によって変わります。愛情であった、支配であった、それとも両方だった。どれに感じるかは読んでみて確認してみてください。

秋生の特徴

次に兄を殺してしまった秋生の生い立ちや性格を見ていきます。発達障害や知的障害、境界知能ということは明言されていませんが、もしかしたら…?と感じる描写がいくつかあります。

深雪:あなたの汚い字、誤字だらけで「とゆう」とか書いてある頭の悪い日本語(152ページ引用)

秋生:普通の人は、普通にできるんですか。ちゃんと学校に行って勉強を頑張ってたら、できますか。(153ページ引用)

秋生:自分の周りには、殴る側のやつか殴られる側のやつしかいませんでした。(157ページ引用)

秋生:みんなおんなじように、何か悪いことして刑務所にきたけど、人を傷つけて死なせたっていうのは、引かれるんだなって思いました。(160ページ引用)

殴る側か殴られる側とあるように周りの環境もかなり荒れていることがわかります。荒れた日常を当たり前と認識して生活してきているので客観的に見ることができなくなっており、それを指摘してくれる人もいなかったように見えます。

友達とのジグソーパズルの描写からも読み取ることができます。

秋生:自分は、そのへんにあったかけらをひとつこっそり持って帰りました。それが、生まれて初めての盗みです。(省略)次の日学校に行くと、その友達が「どうしても一ピース見つからなくて飾れない」と言っていて、めちゃくちゃ嬉しかった。この話をプログラムの時にしました。すると「本当は疑われてたんじゃないですか」と聞かれて、そういうことは考えていなかったので、びっくりしました。友達はあの時、自分がパクったんじゃないかとって思って、わざと話を振った。(176.177ページ引用)

「一ピースないんだけど」と友達から言われたときや、人を傷つけて死なせたという重大さがわからない秋生は、想像力が欠如していることがわかります。全てを踏まえて環境や性格だけでなく、何か特性持ちである可能性が高いと個人的には思いました。

人生の分岐点

秋生はどこかの出来事で、少し修正できればもう一つ違う人生があったのではと思います。そのなかでも特にジグソーパズルの話は、その時に素直に謝ることができていれば、友達との関係性や生きていく上での考え方などが変わったのかもしれません。

秋生と深雪も似ているところがある…?

言語化や感情の整理が得意な深雪ですが、完璧に想像力があるわけではありません。それがわかる部分がパレードの音楽の話です。

深雪:曲名を知っている人は少ないと思いますが、おそらく、大抵の人が大人になるまでにどこかで耳にしていると思うので、あなたが今まで聞いたことがなかったのが驚きです。両親が生きていた頃、パレードを見に行ったことがあります。(175ページ引用)

秋生:テーマパークもパレードも行ったことないです。(176ページ引用)

手紙のやりとりを繰り返していたら秋生の環境が想像できるはずなのに、“当たり前のこと”として認識しています。育ってきた環境が全く違うから、秋生の世界を完全に理解することはできないのではないでしょうか。

『みいちゃんと山田さん』のみいちゃんと秋生は似ている…?

話題のヒット作『みいちゃんと山田さん』にも通じるところがあります。恵まれない環境や学生時代を送ったみいちゃん。そんなみいちゃんも出会う人や少し考え方を変えるだけで人生が全く変わっていたかもしれません。また、みいちゃんは障害など明言はされていませんが、秋生と同じように想像力や逸脱した行動が目立ちます。そして、共通するのが適切な支援を受けていないこと。環境によって取りこぼされてしまう子どもでした。秋生とみいちゃん、性格も環境も全く違いますが、共通点がいくつかあると感じました。

まとめ

ハッピーエンドかそうでないかは読み手によって変わります。兄と深雪、秋生と深雪だけの小さな世界、形は違うけどまさしく本のタイトルにもあるように、スモールワールズだと思いました。パズルは、ピースの置き方やどこから始めるかで完成の過程が変わります。どこから始めても完成しますが、人生はそうはいきません。その対比をもしかしたらパズルで表しているのかもしれません。そして、この話はある意味“ほんの小さな出来事で人生がわかれてしまう”ということも表しているのではと思いました。

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