前回のRizin東京ドーム大会の朝倉未来選手の試合解説が予想以上に反響があり嬉しく思っています。今回は格闘技解説シリーズとして2021年6月19日(日本時間20日)にアメリカラスベガスにて【WBA&IBF世界バンタム級タイトルマッチ】が行われました。
WBAスーパー&IBF世界バンタム級王者の井上尚弥選手が挑戦者でIBF同級1位のマイケル・ダスマリナス選手と戦ったタイトルマッチについて解説していきたいと思います。モンスターこと井上尚弥選手は現代ボクシング界においてパウンドフォーパウンド(体重差無しで誰が最強なのかを示す称号)において世界2位に位置し(一節には一位とも)まさに異名である”モンスター”にふさわしい活躍を世界で見せつけている日本が誇る過去最強クラスのボクサーです。
20戦20勝でKO率は驚異の84.21%を誇るハードパンチャーである井上尚弥選手。もはやチート級の強さです。今回も派手なKOが期待された防衛戦でしたがどのような試合運びだったのでしょうか?振り返ってみたいと思います。
井上尚弥選手のスタッツです、主要4団体あると言われているボクシング団体においてWBAとIBFの統一の王者です。20戦17KOってすごすぎます。。。
IBF一位(ボクシングは一位の上にチャンピオンが居ます)のマイケルダスマリナス選手は33戦2敗1引き分けの戦歴。これだけで十分に強い選手と言えます。どちらも28歳の戦いとなりました。
いつもポーカーフェイスというかあまり表情の変わらない井上尚弥選手、今回も冷静でクールな試合前の印象。井上尚弥選手の試合はカード的にも人気があり今回のようにアメリカラスベガスで行われることが多いです。では早速試合を振り返ってみたいと思います。
1R 遠い距離からの左ジャブとワンツーのコンビネーションが主体
白いトランクスが井上尚弥選手、青いトランクスがマイケルダスマリナス選手。身長もほぼ同じ感じに見えます。井上尚弥選手はオーソドックス、マイケルダスマリナス選手はサウスポースタイルです。
序盤から実際のリーチよりも長く見える井上尚弥選手の左ジャブ。しかし1Rは相手の動きや戦い方を見ているためか近い距離でのパンチは放ちません。
それに対しマイケルダスマリナス選手は左ボディを狙っているようで、井上尚弥選手もしっかり対策し両腕でガートをしています。
両肘で挟み込むようにしっかりガード。別角度のリプレイでも
しっかりとガードできてるのが分かります。もしかしたら、マイケルダスマリナス選手の左ボディストレートは予め警戒していたのかもしれません。
そのボディをブロックした後、右フックをすかさず放つマイケルダスマリナス選手。しかしこの画像を見ていただきたいのですが井上尚弥選手はしっかりこのパンチの軌道を見ています。
上体を動かすこと無く交わしカウンターの左フックを打つ井上尚弥選手。
後頭部付近にヒットしカウンターが成功。しかしこの後は井上尚弥選手も深追いせず
出入りが激しい遠い距離での左ジャブやそこからのワンツーが主体の攻撃がメインとなります。
先程のシーン以外に両選手、特に有効打はなく1Rを終えます。
井上尚弥選手も後のインタビューで「早いラウンドでの決着に手応えを感じた」と言っていたように、いつものクールな表情に変わりません。
2R 封印していた左ボディが発動!
2Rに入りました。1Rよりはやや近い距離での攻防ですが、引き続き左ジャブとワンツーが主体のある意味で基本のボクシングに徹する井上尚弥選手。しかし1分が経過しロープ際に圧をかけて接近していた井上尚弥選手のコンビネーションが炸裂します。
先ほどと同じ左ジャブ。からの
早すぎて見にくいですが、得意技の左ボディ。この左ボディで何人も井上尚弥選手に倒されるシーンを見てきました。
居合斬りの一瞬クリーンヒットしていないかのようにも見えたのですが、時間差でマイケルダスマリナス選手は
立っていられず初めてのダウンを奪います。リプレイでゆっくり見ないとわからないぐらいの左ボディのパンチスピードです。
表情は硬いもののマイケルダスマリナス選手はすぐに立ち上がり、戦意は喪失していないように見えます。
試合再開。2Rも残り40秒ですが、ご覧の通り”決めに来た”井上尚弥の距離が一気に縮まります。
再び左ボディを放ち、1Rでは一発も打たなかった得意のボディ打ちを一気に解禁したかのような連打が。効いてると判断しての集中打だったかと。
残り12秒。またも悪魔の左ボディがマイケルダスマリナス選手にヒット。確実に聞いていると思われましたが死力を尽くして防戦一方の挑戦者。このままガードしなんとかその後はダウンせずにすんだマイケルダスマリナス選手。
先程のダウンを取ったシーンを別角度で。お互いの脚が交錯するほどの近いレンジでの戦いとなっており井上尚弥選手は明らかに1Rと戦い方を変えてきてます。
顔面へのガードを固めるマイケルダスマリナス選手に対して思いっきりクリーンヒットしたかに静止画だと見えるのですが、パンチは止まらずすり抜ける感じでパット見は”クリーンヒットしてないのかな”と見えたりもしました。
ただ、時間差で崩れ落ちる挑戦者。早すぎて目で追えないだけでかなりのボディダメージで崩れ落ちてしまいました。
3R 最後も左ボディで
3Rも引き続き近い距離での攻撃が主体となる井上尚弥選手。マイケルダスマリナス選手も左ボディを警戒してか右のガードがやや下がっています。
その後も左ボディを中心としたコンビネーションを繰り出す、チャンピオンに対して防戦一方の挑戦者。残り40秒。最後もやはり得意の左ボディがきれいに入ります。マイケルダスマリナス選手のキャリアを考えたときに当然井上尚弥選手が左ボディを狙っているのは分かっているはずです。それでも、ここまで綺麗にクリーンヒットさせる技術は流石パウンドフォーパウンドのモンスターならではと言えると思います。
なだれ込みながらダウンするマイケルダスマリナス選手。
流石に2回目のダウンは苦しそうです。先程と同じ部位のクリーンヒットですので、たまらず腹部を押さえています。
しかし、この表情ながらもなんとか起き上がる挑戦者。
死力を尽くして起き上がろうとします。IBF一位が弱いはずはないのですが、完全に試合を支配した井上尚弥選手の前に意識が切れそうになっているのが分かります。
しかし、なんとか起き上がり戦おうとする挑戦者が本当にアスリートとして尊敬できます。素晴らしい。
残り19秒。チャンピオンはこのラウンドでの決着の望みコーナーに追い詰め猛ラッシュ。左アッパーからの、
必殺左ボディ。井上尚弥選手一体この試合で何発の左ボディを放ったのでしょうかwってぐらいの猛攻撃です。こちらの左ボディが、フィニッシュブローとなり
残り17秒。3度目のダウン。この時点でレフリーが試合の終了を告げます。
あくまでKOしてもクールな井上尚弥選手の表情が印象的です。この結果を織り込んでいたかのような達観した様子。
一方起き上がることが出来ない、マイケルダスマリナス選手のダメージは蓄積されたものも含めると戦うことは不可能なレベルにあったと思います。
顔にダメージも疲労の色もまったくない井上尚弥選手、まさにモンスター級の強さと言えると思います。
フィニッシュブローの別角度です。分かっていると思っていても当てられるいわゆる”当て勘”は天性の素養もあるかと思いますが、いつ畳み掛けるのかと言った試合をコントロールする力も井上尚弥選手の真骨頂だと思います。
両腕でをついて倒れる挑戦者。幾度となく狙われた左ボディに試合後、「呼吸が出来なくなるのではと思うぐらい辛かった」とマイケルダスマリナス選手はコメントしており数々の有名選手をマットに沈めてきた”inoueの左ボディ”は伊達じゃないことを証明する形に。
別角度で見ても、ガードがちょうど空いている左ボディにクリーンヒットしています。井上尚弥選手の視覚からは見えない死角になっていたりもしそうで、まさに当て勘も勝利の遠因と言えそうです。
試合のスタッツです。パンチを放った数、ヒットした数、ヒット率、ボディ数です。数字が示すとおり2R以降のボディうちが以下に多かったかのかが分かります。当て勘に関しても放った6割以上が”捨てパンチではなく当てられるパンチ”だという事も驚異的だと思います。
WBA/IBFの両タイトルの防衛に成功した井上尚弥選手。相変わらず他を寄せ付けず圧倒的な試合展開を繰り広げる姿に見ていて”強すぎる”の一言しか出てきません。次戦も他団体のチャンピオンクラスとの対戦が予定されておりますので、また井上尚弥選手の見応えのある戦いを自分なりに解説できたらと思っています。