昨日、パラサイトの映画レビューの記事を公開したところたくさんのアクセス、反響を頂き大変恐縮しているところ。映画にも登場する”カステラ屋で借金”のところを解説して欲しいという声があり少し深堀りしてみたいと思う。(深堀りメディア本能ブログなので!!)
台湾カステラブーム
2016年秋に韓国に台湾カステラブームが起きる。通常のカステラよりも大きく、子供にも食べやすい優しい味でこれをビジネスチャンスとらえた韓国の起業家たち(パラサイトのお父さん恐らくこれに入る)は、次々と台湾カステラ店をオープンさせていく。個人で起業する人も多かったと聞くし、フランチャイズブランドも一気に17ブランドも増えたとのこと。後述する「大王カステラ」のフランチャイズのオーナーもとても多かったと聞く。
そのペースは、「35年間、ソウル市内でオープンしたカステラ店の127カ所のうち、76.3%である97カ所が2016年以降に誕生しました。そのうちの半分ほどである47カ所が今年オープンしました。
1日おきに1軒のカステラ店が新たに開業
をしたのですから、大流行だったというのは事実でしょう。」ーもっとコリアよりーという、昨年の日本のタピオカブームの勢いを上回っていたと考えるのが妥当でしょう。
こんなフワフワのカステラが焼き上がれば視覚的にも嗅覚的にもインパクトを残し、焼き上がる時間には行列が絶えなかったのだという。繁盛店では、一日の売上が200万ウォン(日本円で約20万円)を超える店も。しかし、そんな台湾カステラドリームも儚く
一瞬で終わることになる。
大王カステラ
ブームに乗り現れた「大王カステラ」という韓国発祥のブランド。元祖はもちろん例の台湾カステラであり製法も現地のものと同様に作られていた。台湾カステラの単価は現地台湾ではだいたい300円~400円ほどだったが一方の大王カステラは、600円~900円オーバーと強気の値段設定だった。これには訳があり、本部にロイヤリティ(加盟店手数料)を払いテナント料を払い従業員に賃金を払うことを考えると、この値段設定にせざるを得なかった事情も見え隠れするし、当時はこの値段でも飛ぶように売れたのだと思う。
そんな大王カステラだったが、あちこちのお店で成功している、繁盛しているという噂が韓国全土に流れピーク時には500店以上あったのだという。大王カステラのブランドだけでこの店舗数なので、他のブランドや個人で起業したカステラ店を入れるとものすごい出店ラッシュだったことは想像に難くないし、当然競争も激化していった。
食品XファイルというTV番組
かつて 韓国のTV局である総合編成チャンネルAの「食物Xファイル」という、食品偽装や外食の闇を暴く番組があった。例えば、『カニカマにはカニ成分がゼロ!』とか『ニセ粉唐辛子を見抜く方法!』など過激な内容で韓国では人気の番組だったようだ。その、「食物Xファイル」内で
「大王カステラ、そのしっとりさの秘密」
という特集が組まれその中で、
大王カステラが食用油まみれのカステラであると暴露。
しかも前日に売って残ったカステラと生クリームを組み合わせて新しい商品に変身させる姿も公開。
↑実際の番組の1シーンである。隠し撮りでもされたかのようなセンセーショナルな演出で韓国民はビックリしたはずだ。あの、並んでまで買った大王カステラがこんな粗悪でひどい製法で作られていたなんて、、と。
「放送された後、カステラ店の前に客が群がっていた姿は消えました。ほとんどの店舗は売上が3分の1以下に落ち込みました。売上の90%が減ったという店主もおり、フランチャイズ本社には加盟店の契約解約要求が殺到しました。」-もっとコリア-より
放送の真偽についても、議論がなされ
食物油よりもバターのほうが体に良いのか?
そもそも、カステラを作るのに食物油を使ってはならないのか?
などなど。取材陣は元祖の台湾にまで出向き製法を調査したようだが、彼らが言うには
これはカステラじゃないよケーキだよ
と。仕方ないとおもう。台湾の屋台主の人達がブランディングを気にしたりチェーン展開しようなんて思ってないのに、ましてや300円で提供して気軽に楽しんでもらおうとビジネスしているだけなのに、やれ製法がとか食品油がとか言われても迷惑な話である。
最終的には、「食物Xファイル」側の演出も過激だったしフランチャイズ店全部がこの製法作っていたわけでは無かったというのが事の真相だったようだ。
しかし、一度落ちた「食」の信頼は容易に回復できるものではなく(日本でも様々な食品偽造の歴史もあるが)大王カステラの売上はもとの状態に戻ることは無かったとのこと。
その後食品Xファイルはも、特定のラーメンであるとかヨーグルトやうどんで炎上を繰り返し結局打ち切りになった番組である。
その後フランチャイズオーナーや自己資金で開業したパラサイトのお父さん、地下の旦那さん、みたいな人が韓国中で阿鼻叫喚の声を上げ投資した店の金額を当然回収できるはずもなく撤退し借金だけが残ったと。それにより自殺者まで出たと。
これが、オスカー映画パラサイトにて繰り返しさり気なく出てきた
”台湾カステラで借金”
の事実のようである。パラサイト自体はフィクションだが、ポン・ジュノ監督はこの名もなきオーナーたちの悲痛をお父さん達に重ね合わせて風刺したかったのかもしれない。