『PERFECT DAYS』に出てくるリデザイン公共トイレ「THE TOKYO TOILET」をロケ地めぐりした!さじゃんです。今年のカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を日本の俳優役所広司さんが受賞したニュースが昨年飛び込んで来ました。
その時から気になっていた今回の受賞作Perfect Days。日本財団と渋谷区が展開する「The TOKYO Toilet」というプロジェクトをベースに役所広司演じる”平山”という男の日常を綴るドイツ人のヴィム・ヴェンダース監督によるフランス映画のような作品。
鑑賞した今でも「すぐにでももう一度見たい」と思わせる素晴らしい作品でどの角度からお伝えして良いかわかりませんが、一人でも多くの方に観ていただきたく公開終了も迫る中ですが今回はレビューしていきたいと思っています。ストーリーを追うような映画ではないですがネタバレはありませんのでご安心ください。
ヴィム・ヴェンダースが描くリアルな東京
「Perfect Days」におけるヴィム・ヴェンダース監督の手腕は、東京という都市の多様な顔を独特な視点で捉えることが素晴らしさのベースにあると考えています。彼の映画では、寡黙なトイレ清掃員(役所広司)平山の日常を通じて、東京の日常と非日常が交錯する様子を描いています。フィクションなのにノンフィクションのようなドキュメンタリーのような描写は本当に見ていて引き込まれます。特に、渋谷のデザイン・トイレプロジェクト「THE TOKYO TOILET」への表現は公共空間におけるデザインと機能性の融合を示す興味深いプロジェクトとして映画のコントラストそのものを上げています。
ヴェンダース監督は、新旧の対比を巧みに描き出し東京の複雑なテクスチャーを浮き彫りにしています。彼のフィルムカメラは先進的なデザインの公衆トイレと、主人公が住む古びた木造アパートという、時代の異なる二つの空間を行き来します。この対比は東京という街が持つ時間の層を感じさせ、観る者に都市の歴史的な深みを想像させます。
また、ヴェンダース監督は役所広司が演じる主人公が愛用するカセットテープやフィルムカメラといったアイテムを通じて、古き良き時代への郷愁を表現しています。これらのアイテムはデジタル化が進む現代においても、人々の生活の中に根強く残るアナログの価値を象徴しています。主人公がこれらのアイテムに囲まれながら生活する様子は、新しいものが次々と生まれる都市の中で、個人が大切にする価値観や趣味を守り続けることの大切さを示唆しています。
「Perfect Days」におけるヴェンダース監督の視点は、単なる旅行者の目では捉えられない、東京の深層を掘り下げるものです。彼の映画は、都市の日常の中に息づく人々の生の声を捉え、東京が持つ多様な魅力を国際的な視聴者に伝える窓口となっています。その独自の切り取り方は、東京という街を新たな角度から見直すきっかけを提供し、観る者に深い印象を与えます。
役所広司の受賞作たる素晴らしい演技
「Perfect Days」での役所広司の演技は映画が伝えるメッセージの核心に深く根ざしています。彼が演じる平山というキャラクターはその物静かな存在感と、言葉を越えた豊かな表現力で物語を紡ぎ出します。役所広司は言葉を極力使わずに、目の動き、わずかな表情の変化、体のしぐさを通じて、平山の内面世界を繊細に描き出しています。このような演技は観客に平山の感情の機微を伝え、彼の心の動きをリアルに感じさせます。映画は前述の東京のデザインされた公衆トイレを舞台に、平山がトイレ清掃員としての日々を送る様子を描いています。この独特な設定は役所広司の演技力なぜる前提で作られていると感じました。彼のキャラクターは、日々のルーティンの中でさえも、深い人間性と複雑な感情を内包しています。映画では、赤いライトを中心にした独自のライティングが用いられ、役所広司の演技と相まって、平山の孤独感や内面の葛藤を際立たせています。
さらに、役所広司はエグゼクティブプロデューサーとしても本作に関わり、リハーサルなしで本番を迎えるという、最も役者の技術が試される現場で、その演技力を最大限に発揮しました。わずか16日間の撮影期間で彼の深い洞察力と豊かな表現力が「Perfect Days」を「最高峰の映画」へと昇華させました。役所広司の演技は、国境を超えて多くの観客に感動を与え、日本映画の魅力を世界に伝える力となっています。役所広司の演技は、「Perfect Days」の物語を単なる日常の一コマから、深い人間ドラマへと昇華させる鍵となっています。彼の演技は、観客に対して言葉を越えたコミュニケーションを可能にし、映画が伝えるテーマやメッセージをより深く、より豊かに感じさせます。この映画を通じて、役所広司は再び、彼がなぜ日本を代表する俳優の一人であるかを世界に示しました。
配給の関係からか大手のシネマコンプレックスでもあまり上映回数は多くなく、単館系の映画として扱われている本作。日本では今年の1月末から上映が開始されていますが、素晴らしい作品なのにあまりロングランする雰囲気もなさそうですのでお早めに本当に沢山の方に見て頂けたら嬉しいなと思っています。間違いなく今年イチですし、以降役所広司の代表作と言われるであろう伝説的な作品だと感じました。