サブカル分野なら自信がある、新人ライター佐藤杜美です。皆さんはどんなジャンルの映画が好きですか?私は、アングラやサブカル系の映画が好きでよく見ています。そこで今回は、私が心に刺さった平成の映画を2つピックアップし、名言や言葉から読み取れることを考察していきます。
原作・岡崎京子『ヘルタースケルター』

まず最初にご紹介するのは、2012年に大ヒットした岡崎京子氏作の『ヘルタースケルター』。見たことがある!という方も多いのではないでしょうか?蜷川実花監督らしい、華やかで奇抜な空間や彩りが魅力的。どの場面を切り取っても蜷川ワールドが感じられ、引き込まれてしまいます。この映画には、なんと企画協力に私が大好きな金原ひとみ氏も参加しているらしいです。『蛇にピアス』と重なる部分があることは分かるのですが、彼女は一体何に協力していたのか気になるところ。様々な人物が関わることで、繋がりが生まれ、作品の良さや深さが出ていくのだと改めて気づきました。
あらすじ&キャスト
第8回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した岡崎京子の同名コミックを、写真家・蜷川実花の監督第2作として実写映画化。主演は「クローズド・ノート」(2007)以来5年ぶりの銀幕復帰となる沢尻エリカ。究極の美貌とスタイルを武器に芸能界でトップスターとなったモデルのりりこだったが、その美貌はすべて全身整形で手に入れた作り物だった。そんな誰にも言えない秘密を抱えながらも、人々の羨望の的となり欲望渦巻く世界をひた走るりりこは、やがてある事件を巻き起こし……。
引用
キャストは沢尻エリカさんをはじめ、寺島しのぶさん、綾野剛さん、水原希子さんなど、現在も活躍する俳優が演じています。
女優の沢尻エリカさんのファンである私は、これは彼女自身を反映しているのではないかと思いました。華やかで美人で、なんでも持っているように感じられる彼女ですが、どこか孤独を抱えているような雰囲気がインタビューや記事などからわかります。それも相まって、『ヘルタースケルター』という作品が輝いて見えるのだと私は思います。割と素で演技しているのではないか?と感じられるシーンが多くあり、天性の才能を持った女優であることは確かだと思いました。
セリフから考えること
「最初に一言、笑いと叫びはよく似ている。」
映画とは全く関係ないのですが、最近YouTubeの街録chを見ており、人って本当に悲しいことがあった時は、泣くのではなく笑いながら話すということに気づきました。叫ぶことと笑いは似た作用を持ち、一種の防衛反応なのではないでしょうか。もちろん人それぞれではありますが、涙では表せない深い悲しみが笑いということで現れる。このセリフの笑い=叫びというのには納得しました。
「ママ、私って赤字?黒字?」
物語の後半のセリフにも注目です。これは事務所の売上を気にしているのもありますが、裏を読むと「私って愛されてた?そうではなかった?」という風にも聞こえます。
「若くてキラキラしてて。でもいつかそれが終わることを知っている。どうして神様は私達に若さと美しさを与え、奪うんでしょう?」
「その2つはイコールじゃない。若さは美しいけど、美しさは若さじゃない。」
どんな人でも若さは終わるということは、頭ではわかっています。ですが、自分が若い時って若さに気づかないことが多いのではないのでしょうか。失ってから気づくのかも。若さと美しさってある意味そのくらい些細なものなのかもしれません。
最後に
承認欲求や美の追求を求められる現代。13年前の作品ですが、根本的な人間の心理はいつの時代でも変わらないということがわかります。過剰な承認欲求や整形、薬、セックスは、破壊であり自傷行為であり、これらは「自分を認めて欲しい」「自分を見てもらえなくなった時の不安」に集約されるのではないでしょうか。
りりこは美貌や名声など、周りから見て羨ましいと思われる物をたくさん持っていましたが、それだけではどうにもならないことがあるということ。そして最後に、私の最近の人間関係と過去を通して、お金や学歴、美貌、権力を持っていたとしても、それだけでは埋まらないことや、埋めることができないことが多々あるということを『ヘルタースケルター』を通して知ることができました。
原作・嶽本野ばら『下妻物語』

続いてご紹介するのは、2004年に公開され、2024年にはリバイバル上映された映画『下妻物語』。ヤンキーとロリータファッションに身を包む対照的な2人の友情物語です。私はこの作品の影響で、ロリータファッションが認知されたと考えています。それは後々詳しく話します。
あらすじ&キャスト
茨城県下妻市を舞台に、ロリータとヤンキーという正反対の価値観を持つ2人の少女の友情を描いた青春コメディ。嶽本野ばらの同名小説を原作に、中島哲也が監督・脚色を手がけた。見渡す限りの田んぼが広がる茨城県下妻市。ロココ時代のフランスに憧れる17歳の超マイペースな少女・桃子は、大好きなロリータファッションに身を包み、崇拝するブランドの本店がある代官山まで通い続けている。そんなある日、洋服代を稼ぐため有名ブランドの偽物を売り始めた彼女の前に、地元の暴走族に所属する同年代の少女・イチゴが現れる。根性の座った桃子を気に入ったイチゴは、それ以来、頻繁に彼女の家を訪れるようになる。
引用
キャストは、土屋アンナさん、深田恭子さん、篠原涼子さん、阿部サダヲさんなど、現在も活躍する俳優たちが揃っています。
桃子と社長の名言
「人間は大きな幸せを目の前にすると、急に臆病になる。幸せを勝ち取るには不幸を耐え忍ぶより勇気がいる。」
もしかしたら幸せと不幸はイコールなのかもしれません。
「あなたは洋服作りが好きですか?この仕事を始めてから、洋服作りが僕の全てでした。この仕事に僕の情熱を全てささげていた。仕事に比べたら友達なんてなんの価値もない。友との約束も仕事のためなら平気で破る。仕事とはそういうものだと信じてきました。だから僕には友達がいません。一人もいません。自分をさらけだして、付き合える人がいません。行ってあげなさい、行くべきです。」
仕事に情熱をささげて来た人の助言には、心打たれます。年齢や立場など関係なく、まっすぐ桃子に向き合う社長は、社長として人間としての鏡です。
この映画は、カワイイ+友情+コメディがミックスされた何とも言えない映画です。ヤンキーで仲間を大事にするイチコと、友達がいない桃子。一見真逆の2人ですが、“自分を貫く”という姿は共通しているように見えます。笑いあり感動ありの映画ですので、気になった方はぜひ。
ロリータと令和のファッションの繋がり
この映画が公開されたのが2004年。当時は、まだまだロリータファッションへの知名度は低かったように感じます。しかし、この映画を筆頭に徐々にロリータ文化が広まっていったと推測されます。
日本ロリータ協会会長の青木美沙子氏は「やっぱり『下妻物語』の影響力は大きかったですね。2004年に映画が公開されて、深田恭子さんが着こなすロリータファッションでかなりポジティブな印象になったように思います。2000年代に入る前のロリータファッションは、どうしてもニッチなファッションという印象が強くてあまり良いイメージは持たれていなかったですね。1990年代からひとつのファッションジャンルとして確立していたと思いますが、それでもブームの浮き沈みはありました(中略)Y2Kのような流行回帰がロリータファッションでも起きていて、ちょうど映画で深田恭子さんが着用していた、BABY, THE STARS SHINE BRIGHT(ベイビー、ザ スターズ シャイン ブライト)のようなロリータファッションも再注目されていますね」と述べています。
引用
2015年頃には、“夢みたいにかわいい”という意味から生まれた言葉「ゆめかわいい」が流行。「Nile Perch」や「Swankiss」などパステルカラーなどのファンシーなファッションが流行しました。2019年頃には「量産型・地雷系ファッション」が流行。ゴスロリを連想させるような「地雷系」と、甘ロリを連想させるような「量産型」。平成から令和にかけて、フリルやリボンを強調した、ロリータに近いようなファッションが継続されて出てきています。日本の“カワイイ文化”を象徴するようなものは、形やスタイルを変えて受け継がれているのではないでしょうか。
まとめ
平成時代を飾った作品が、今の時代に影響をもたらしたものは大きかったのかもしれません。平成も令和も、様々な作品や言葉、人物たちが私達に彩りを与えてくれます。直接的には影響を与えないかもしれませんが、小さなことが間接的に影響を与えて次の世代、またその次の世代へと受け継がれていくのではないでしょうか。